・・・七夕の夜の出来事。















□七夕





黄色に青色…赤に金銀…家々の軒に飾られた笹の先に色とりどりの短冊が風に揺れて――。


笹の葉揺れる…

さらさら揺れる。

金銀砂子…先生と見れたらいいな、きっと綺麗だってばよ・・・・・・。
















「ねーねーサクラちゃん、今日って雨降るのかなぁ…」

「あんたねーっ!一体朝から同じ事ばかり何回聞く気?!今日は夕方から雨よっ!ねっ、サスケ君!!」

「天気予報見てないのかよ、ドベ。」




朝の集合時間からこの不毛な遣り取りが、任務最中まで延々と続いていた。
ナルトは任務をこなしながらも、時折ぼんやりした顔で空を眺め、徐々に雲を多くしていく空に眉を顰めながら、仲間の二人に同じ事を質問する。
サクラは何度も繰り返されるナルトの質問に、最初こそは大人しく普通のテンションで受け答えしていたが、流石にイラ立ってきたのか・・・
両の腕を腰にかけ、仁王立ちになってナルトを睨みつけながら乱暴な口調で喧嘩腰に言い放つ始末。
サクラとナルトの遣り取りを見遣るサスケは、いつものように投げ捨てるような台詞を吐いて…




「今日…七夕なのにさ…」
「ウザイわよナルトっ!降るものは降るの!見てみなさいよ…もう、雨雲が出てきてるじゃない。あの腐れ上忍担任教師が草むしり任務手伝いもせず読書に耽ってる今、一番考えなくちゃいけないことは、七夕云々よりも、雨が降り出す前に任務を早急に終らす事なのよっ!判ってんの!?」
「わ、判ったってばよ…怖いってばサクラちゃん・・・」


サクラにものすごい形相で、至極真っ当なことを噛み付くような勢いで言われてしまえば、ナルトはグッと言葉に詰まって黙り込んでしまう。
確かにこのままのスピードで続ければ、草むしりが済む前に雨が降り出してしまうだろう。
サクラの言う事はもっともだと…、今にも泣き出しそうな空を恨めしそうに一睨みした後、ナルトは本腰を入れて茫々と生える雑草を猛スピードで毟りだした。

「そうそう。その勢いで遣りなさいって。」

その様を満足そうに眺めたサクラが幾らか機嫌を良くして、また静かに草を毟りだす。



そんないつもの騒がしい光景を目の端に捉えながら、今日もカカシは我関せずと、大杉の下でお気に入りの本を読んでいた。







そろそろ夕刻。
とうとう空がポロポロと泣き出し初めて――




「終った―っ!」
「終ったってばよ…っ!」
「・・・・・・」


三人が少しばかりへこたれながらも、誇らしげな顔で叫びを上げるが・・・(一名は無言の叫びだが・・・)
先ほどまで大杉の下に座り込んでいたカカシの姿は今は無く。
各々ががキョロキョロしていると、一陣の風と共にいきなり姿を現す。
いつも不意を突く男、はたけカカシ。


「ごーかっく、今日の任務終了!良かったな、本格的に降り出す前に終って」


覆面の下は満面のニコニコ顔であろう、一つしか覗いていない目を細めて三人の顔を覗き込む上忍カカシ。
アンタが手伝えば、もっと早く済んだのに…。とサクラの内なる声が聞こえてきそうではあったが、今にも本降りしそうな空に悠長にもしていられず解散の号令が掛かるや否や、サクラもサスケも濡れるのは御免。とばかりに、早々に帰っていった。
そんな二人に”またなー”と笑顔で手を振って、ナルトはいつもみたいにカカシの前に突っ立って・・・


その場に残るのは、降出す雨をやはり濡れながら恨めしげに眺めるナルトと、その姿を眺めるカカシの二人で――


「んー、ナルトは帰んないの?」


ナルトの視線と同じ位置までしゃがみ込んだカカシが、上ばかりを見るナルトに軽く首を傾げて尋ねれば。


「あのねせんせー…、今日雨降ってほしくなかったってば・・・」
「……?」


質問とは少しばかり視点の違う返答に、カカシは更に首を傾げる。
そのカカシの様子を知ってか知らずか、ナルトが漸くカカシの目を見るように前に向き直り。

「本当はね、雨降らなかったら・・・せんせーに言いたい事あったってば・・・。でも、いいや。今日は俺、もう帰るね。」

雨に濡れた額宛に、同じく雨に濡れそぼった金の髪を張り付かせてナルトがカカシにニッコリと笑って見せる。
そのナルトのニッコリに、カカシはドキリとして、らしくもなく言葉を詰まらせた。
この子の他愛もない仕草や表情の一つ一つに、初心な子供のように反応し動揺してしまって・・・続く言葉が見つけられなくなるのだ。
本当は、何で?って聞いてやりたいのに、濡れて張り付いた前髪をその大きな掌でかき上げてやるので精一杯で、
今日も…
”さよならせんせー…、また明日。”
言葉残して去っていくナルトの背を見送るだけで、ナルトが言いたかった事も聞いてやる事が出来なかった。


「俺ってダメだね…本気のコには、どうしてこうも上手く喋ってやれないの……」


降り続く雨に頭を冷やそうと、カカシはナルトの背が見えなくなってもその場に立ったままでいた。
濡れた頭をポリリとかいて…


















ガヤガヤと騒がしい店内。上忍が屯する飲み屋に足を運べば、いつものカウンター席に陣取っているのはアンコと紅で。

「よう、お二人さん。隣いいかー?」
「いいわよー!ってアンタびっじょびじょじゃないっ!」
「ああ、降り出したからね。任務終了時にはどっしゃ降り。」

軽く腕を上げて振り返る二人に挨拶すれば、よっこらせとスツールに腰をかけ、叫ぶアンコをものともしないでメニュー表に視線を遊ばせる。
大きな声で騒ぐアンコに、割と静かに酒を飲む紅。面白い組み合わせだ・・・と思いつつも、二人の会話が気になった。

「今年も雨かーっ!やっぱりね、どうも七夕の夜は毎年雨が降るねー!」
「そうそう、去年も一昨年も雨だったよ。確か・・・」
「七夕・・・?え・・・、今日って七夕なんだ・・・」

聞き返せばバチンとアンコに背を叩かれる。
ガハハとビールジョッキ片手に大笑いするアンコは豪快過ぎて、既に女という認識をカカシの頭はしなくなっていた。

「上忍ともあろうものが・・・っ!あっちやこっちの家の玄関に、笹が飾ってあったろうが!見てないの?今日は7月7日、彦星と織姫が天の川を越えて一年に一度出会うロマーンチックな夜~~~っ!」
「酔ってんのかいアンコ、あんたの口からロマンチックなんて言葉聞きたくないね」


乙女のように両手を組み合わせ、ふざけて説明をするアンコを尻目に、紅がグラス片手に冷静に突っ込んでいた。
なかなかいいコンビかもしれない。未だオーダーを済ませないまま二人を眺めていたが、アンコの台詞でふと思い出す。


『あのねせんせー…、今日雨降ってほしくなかったってば・・・』

『雨降らなかったら・・・せんせーに言いたい事あったってば・・・』


先ほどの、ナルトの言葉がピンとくる。
カカシはハッとして覗く片目を見開いた。
明らかにナルトは今日の日を意識していた。あの言葉の裏はきっと、”晴れて星が見れたなら・・・先生と一緒に見たい。”そうだったに違いない、違いないのだ。
そう思ってしまえば、カカシは柄にもなく慌てたようにガタンと音を立てて席を立つ。

「・・・用を思い出しちゃった、帰るわ」

”えー!?来たばっかりなのに・・・!飲んでけよ!”
”久しぶりに飲めると思ったのに、それは残念ね…”

口々に言葉返されてもカカシは既に心ここにあらずの状態で…。
悪い、また今度。と、素っ気無くあっさり気味にそれだけ言って…不満の表情を浮べる女性陣を尻目に、煙が消えるようにその場を後にした。











雨の中、ものすごいスピードで向かう先は一つ。
すっかり日も暮れて、もう夜の帳が落ちている。あの子なら、恐らく明日の任務に備えて風呂を済ませて寝ている時刻。




俺って凄くドンくさい?!

あんなに判りやすい言葉なのに・・・それでも何も言わずに帰してしまった。

幾らなんでも七夕って忘れてたからって、察し悪すぎデショ・・・!

俺と一緒に星を見たかったんだ。この特別な夜に・・・

それって可愛過ぎる申し出・・・。一人に出来る訳無いデショ、すぐに行くからね!



身に触れる雨粒が、そのスピードで見る間に後方へ流れていく。
漆黒の闇に走る銀の矢尻のように、カカシはスピードを上げてナルトの家へと向かった。






窓辺に気配を消して立てば、部屋の明かりは落とされていて、室内はとても静かな様子。
この窓のすぐ横にナルトのベッドがあるはずだ。なのに気配が薄いのは眠っている証拠。
カカシは音も立てずに室内へと侵入を果たした。
暗がりの中でも上忍の視界はよく効く。
軽く室内を見渡せば、雨の為室内に非難させられた笹の葉を見つけて、足音立てずににそっとそれに近づいた。
何色もの短冊が結び付けられて、その中の幾つかに拙い文字が見られる。
そっと手を伸ばして片目で文字を追う。

えーと、何々・・・?
これは・・・火影に・・・なる。…ね、なるほど・・・ナルトらしいね・・・。

んー、こっちは・・・七班のメンバーが任務で怪我しませんように・・・。か・・・
優しい子だね――。

んっと、で、こっちは・・・・・・
イルカせんせーがもっとラーメン奢ってくれますように・・・。
おいおいおい・・・、またあの中忍か・・・

はー、でこっちは・・・
カカシせんせーともっと仲良くなれますよーに、んで…カカシせんせーが俺を好きになってくれますよーに。
…って、え?!これって・・・どういう事?!

最後の短冊の願い事に目を通した後、笹の前で一瞬カカシは固まって、濡れた髪から雨の雫が落ちた事に気付きもしなかった。
ポタリと床の上で雫が音を立てる。その音は静かな部屋で響いて…



「ん・・・、何……?」



しまった・・・、ナルトが目覚めえしまったようだ。のそのそと起き上がる気配を察知し、起きたのなら仕方ない。とカカシはベッド傍に近づいていく。
身を少しばかり屈ませて起き上がるナルトを覗き込み。


「起こしちゃってごめーんね、ナルト。早く寝るんだねぇ」
「エ・・・?その声・・・嘘、せんせー?!」


びっくりしたようにごしごしと眼を擦って覗き込む俺を見つめてくる様子が、殺人的に可愛らしい。
カカシは夜目が利くので暗がりにでもよく判った。
今もナルトはびっくりしたように見上げたままで。

「うわ、せんせ・・・何で居るってば・・・?」
「何でって…お前、今日任務の帰り際に何か言いかけてたデショ。せんせー知ってるよ・・・今日は七夕、本当はせんせーと一緒に星を見たかったんデショ?」

ニコニコと笑顔でナルトに告げれば、ナルトが目覚めたばかりの瞳でキョトンと見つめてくる。とても不思議そうな目で・・・

「でも・・・。今夜は雨だってば・・・お星さま見えないってばよ?」
「いーのっ!見えなくても今日は七夕の夜デショ?!彦星さまと織姫さまが一年に一度逢瀬する夜。ナルトは今夜せんせーと一緒に居たくなかった?居たかったから、雨降って欲しくなかったんだよね?!」

相変わらずニコニコと微笑んで言葉をかければ、ナルトが少しばかり照れたようにして顔を伏せる。
ほら、やっぱり図星だったのだ。
それにせんせー見ちゃったもんね、笹の葉に付いた願い事。しっかりばっちり見ちゃったからね。
あんな可愛い願い事見ちゃったら、せんせーとてもじゃないけど大人しくなれないよ。
せんせー、これからはちょっと強引になっちゃうよ。

だって、両思いってことなんだから…!
好きの意味はちょっと違うかもしれないけど、少なくてもあの中忍と今夜星を見ようと思わなかったんデショ。
俺、あのイルカせんせーに勝ったって思っていいよね?
脈有りって思っていいよね?
ナルトお前の願い事、もう叶ってるよ。
せんせー、ナルトの事…もうとっくの昔に好きになってる。
いや、好きよりもっと上のランク。言葉でなんて言い表せないね。


俯いて顔を真っ赤にしているだろうナルトの、ナイトキャップをずり落としながら髪を撫でてやる。
洗い立ての金の髪の感触が掌にあまりに心地よくて、冷酷上忍カカシともあろう者がすっかり胸なんてドキドキさせて。
髪を撫でられて擽ったそうに肩を竦めながら、ナルトがチロとカカシを見る。

「あ、あのね…せんせーとお星様見たかったってば…、せんせーにお星様のこと色々教えて欲しかったってば・・・でも―――」

そう言って顔をくしゃっとさせたナルトと、その素直な言葉にクラクラしてしまう。
顔を覗き込んだまま、そのままグッと近寄ってキスしてやろうかと思ったほどに・・・。

「でも?」

最後の言葉が気になって、出来るだけ優しい声音で聞き返してやれば。
ナルトは一生懸命といった風に言葉を続ける。


「雨降ったから、せんせーにお願い出来なかったってば・・・一緒にお星様見てって・・・・・・・・・」


くーっ!可愛いね!!可愛すぎるよナルトっ!
今口布を外したら、千年の恋も冷めるようなだらしない口元を見られてしまうな、きっと!

「いいんだよナルト、いいの。いいの。」

そのまま小さなベッドに腰をかけて、ナルトの頬に手を触れる。
いいの、いいの。と何度も宥めるように頬を撫ぜてやり。

「あのね・・・雨降って、彦星さまと織姫さまが会えないその代わりに・・・・・・。せんせーとナルトが今夜は一緒に居まショ。」

ニッコリ笑って口布取って、ぽやぽやしているその頬にゆっくりと唇を寄せて・・・
本当に軽いキスを一つだけ。

「ナルトが寝るまで星のお話するよ・・・。雨でもいいじゃない」

ちょっとびっくりしたような顔をするナルトに満面の笑みを見せる。
びっくりした?初めて素顔を見せたものね。
でも・・・暗がりでははっきり分からないデショ?
今度はゆっくり見せてあげるから・・・

キスの後ギュッとナルトを抱きしめれば、ナルトもキュッとベストを掴んでくれて。

「うん、お星様の話してってば・・!」

とっても嬉しそうに答えるその声に、ああ、来て良かったと。本当に来て良かったと。そう思わずにはいられなかった。
今夜は雨でもいい。
ナルトと一緒に居られるなら、星が見れなくたって全然いい。


今夜は七夕。特別な夜。
そしてカカシにとっても特別な夜。


覚悟してねナルト、これからせんせー・・・ナルトの事離さないから。

「ナールト・・・」

雨の音にかき消されるほど小さな声で、ナルトの名をカカシは愛しげに呟いた。













by 千之介

本来は、甘いものもラヴラヴも砂吐き過ぎて書けない人(超苦手)なのですが
ナルト、カカナルに関しては例外な用で、一番最初に、サイト開設の為に書いたのがこれです。
2003年NARUTOにいきなり萌え上がって、別館作った時に置いておりました。
その後、本館から別館は無くしましたが、この度の2010年映画「ザ・ロストタワー」にて
二度はまりを経験してしまいました。
本館では、いにしえのジャンプ漫画「魁!!男塾」をメインに活動しておりましたが、この度の二度はまりを機に別館を単独で復活させた次第です(汗)
その頃はまだ一部萌えだったんだなぁ・・・(遠い目)

拙い文ではございますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
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