俺はあの時先生とした、もう一つの約束をすっかり失念してしまった―――
忘れてしまったんだよなぁ―――
【Presents】
「よっ!ナ~ルト」
この能天気な声は……間違いようがない。カカシ先生だ。
しかも……また窓だってばよ。
「カカシ先生…。俺ほ~~んと何度も言ってるよな……。俺んちにもちゃ~んと玄関あるんですけど……」
「いやぁ……ついつい。慣れって恐いね~ぇ」
かなりの不機嫌モードで、玄関の方角を指差しているのに、先生は平気の平左で頭をかきながら、よっこらせと窓枠を越えている。
いつもといえば、いつもだから。気にしないでいいといえば、いいんだけど。
今日は俺の誕生日だってーのに、ムードもへったくれもあったもんじゃぁないってば。
しかも長い修行で里を離れて、帰郷してから先生と初めて過ごす特別な誕生日だ。
期待しないといえば嘘になる。
「仕方のない先生だってば……んっとに……で、何か飲む?」
俺はベッドから降りて、先生にぶつくさいいつつ、ちゃんと飲み物を用意しようとキッチンへ向かった。
何だかかんだいいながら、俺ってば先生に甘いんだよなぁ。
「ん~~、外も涼しくなってきたし……温かいお茶が有難いね~」
「ほ~い、じゃ、玄米茶でいいよな」
「いいよ~」
先生は脱いだサンダルを片手に、ちゃんと玄関に置きに行く。それぐらいなら、初めっから玄関使えばいいのに……
なぁんて思ったけど、もうお小言を言うのは止めて、電気ポットに水を注ぎ入れた。
机の上には先生と俺の湯のみ茶碗を並べ、急須には新しいお茶の葉を入れた。用意が整えばテーブルの椅子に腰掛ける。
先生もいつものとおり、椅子を引き出して既に着席している。
ほっと一息ついたのか、口布と額当てを外し、乱れた髪を右の手で一櫛二櫛入れる様子は、やっぱり男前だったりする。
しばし見惚れていると、俺の視線に気付いたのか、先生が二コリと微笑んできて……
思わず照れくさくて俯いて、そろそろ湧きそうなお湯のチェックなんかしたりして。
「そ、ろそろだってばよ…」
「ん~」
急須にコポコポと湯気の立つ熱湯を注き込むと、茶の葉の良い香りが鼻を擽り、飲んでもいないのに何だか温かい気持ちになるから不思議だ。
きっと二人分のお茶を入れてるからなのかもしれない。
「先生、外冷える?」
「ああ、陽が落ちると途端に空気が変わってくるよ。風が秋の冷たさだね…」
頬杖ついて、俺の入れるお茶を眺めている先生は、とっても穏やかな表情をしていた。
「もう、真っ暗だってば……暗くなんの早くなったよなぁ……」
「ああ、一日が早く感じるし………夜が早く来るから、ナルトにも早く会いたくなっちゃって……コマリモノだよ」
「うっ…///」
さらりと、赤面するような科白をカカシ先生は臆面もなく吐く。
「はい、茶……」
「どうも」
今の科白で、先生の顔が見れなくなって、顔を見ないで湯呑み茶碗を差し出した。
先生が目で笑ってるんだろうなぁと、だいたい想像出来てしまう。
「すごいねぇ~…」
「は?何が??」
先生が唐突に感嘆の声をあげるから、俺は驚いてしまった。
ほら、と先生が指差す先には………
隠しておくつもりもなかったけど、部屋の片隅に紙袋一杯のラッピングが入りきらずに覗いている。
どれにも、色とりどりのリボンや花が付いていて、隅っこにあってもばっちり目立っていた。
「ああ、…あれ?」
「里の皆から貰ったの?」
「うん。なんか、今年は多くてびっくりしたってば」
随分と昔なら、誕生日すら誰も気付くことがなかったほどなのに。
今年は慰霊祭の終了時を狙ったかのように、沢山の人からプレゼントを貰った。
サクラちゃんには今までも貰った記憶があったけど、今年はいのも、シカマルもチョウジも、シノやヒナタにキバ、リーやテンテンあのネジですら、俺を探して渡しに来てくれた。
ああ、いつも言い合いするサイもくれたっけ。
綱手のばぁちゃんも今日は忙しいから、手渡し出来ずにすまないと、プレゼントをシズネさんにことづけてくれたんだ。
シズネさんにも、”これは私から”と……小さく可愛い箱を貰った。中身は修行の際に回復を早くする特性兵糧丸だって。
「よかったね」
「う、うん」
先生ってば、普段なら焼餅を焼くこともあるのに…嘘みたいに綺麗に笑った。
今日は機嫌がいいのかなぁ~…。
「ナルトは今年16歳になるんだよね」
「おうっ!大人だってばよ」
「16歳ってさ……木の葉では男女共に結婚出来る年齢って知ってた?」
「飲酒・喫煙もやり放題だってばよ!」
「いやいや、それはいいから……。ね、知ってた?」
「うん、まぁ……知識と常識だし」
先生が何を言いたいのかがよくわからず、俺は目をポチクリとさせていた。
ベストのジッパーを引き下げて、先生が片手を突っ込みごそごそと何かを探る。
そして…
「ナルトは覚えてる?………俺が昔、ナルトにしたプレゼントの約束」
「へ?」
「かなり前だけど……ナルトにプレゼントするって約束したよね」
「はい?」
「……ん~~…その様子じゃあ、覚えてないかな。ほら」
そう言うと、ベストの中から大事そうに白い紙切れを先生は取りだした。
その紙切れを、俺の眼の前でヒラヒラさせる。何だってばよ???
「16歳の誕生日おめでとう。ナ・ル・ト」
「お、おう…ありがとうってばセンセ…で、それってば、何?」
「これ?」
「うん。その紙」
「フフフ。婚姻届けだよ~」
「ふ~ん、婚姻届…………って、こ、……こんいんとどけ―――――――っ!!!???」
「そう、『婚姻届』。ナルトにやっと家族をプレゼント出来るよ~~~。もう、待ちに待った誕生日!16歳おめでとう!!もう、本っ当におめでとう~~~~!!!」」
「ちょ…ちょ……、待ってくれってば、先生……家族って………?」
「ウフフ。里では同性間の婚姻は法律で認められているからね~。結婚できるわけ。これで、晴れてナルトと俺は家族になれるんだよ」
先生……それ、マジで言ってますか?
いや、マジですね……目が本気っぽいし。
それに、白い紙の隅っこ……はたけカカシって名前と紅い朱肉の押印もちゃんと目視で確認出来る。
「ほら、ここ。ここにナルトの名前とハンコくれたら、あとは出すだけだよ~~」
「っちょ…っちょっと待てくれってばせんせ…。それ本物?!」
白い。
そして、薄いけどとっても重要な紙を、自身の手と目で確認しよう手を伸ばしても、カカシ先生はヒラヒラとさせながら絶妙のタイミングで逃げる。
と……届かないってば……よ。くっそー。
「カカシせんせっ!それ見せてくれってばよ!」
「だーめ。まず返事が先でしょ?……オマエ…………まさか、返事、『NO』なわけ??俺と家族になれるの嬉しくないの?」
「い、いや……それはその……ォ」
「ちょーっと、それは無いんじゃない?!俺はお前一筋なのよ。分ってるよねナルト…勿論分ってるよね?!それに、お前だって俺のこと恋人って認めてくれてるんじゃないの?」
「いや、はい。そのとおりです」
「俺のこと好きだよね?」
「あ、はい。好きです」
「大好きだよね?」
「え?……あ、いや、はい。大好きです」
何か、おかしい。すっげ恥ずかしいこと、どさくさに紛れて言わされてる気がしなくも……ない。
「じゃあ、答えは一つでしょうよ」
「あ……いや、それは……」
ここは、『はい』って言っていいもんなんだろうか……。
いくら俺だって、これはおおいに悩むってばよ……。いや、考えるだろう。普通。
俺、言っても16歳だってばよ??しかもなりたてホヤホヤ。
まだまだ、修行して、目茶苦茶頑張ること山ほどあるってばよ??
その前に結婚って………いいのか?いいのか俺??
先生と、白い紙一枚を挟んで睨むように見つめ合い、俺の頭はフル回転して考える。
その間にも、先生の機嫌は急降下だ。
「ナルトぉ……。まさかと思うけど、そこのプレゼント貰った中で、気になってるヤツが居るってんじゃあないよねぇ……」
「……何だって!?」
マズイ……。
先生の声がワントーン、ツートーンは下がった。
先生の普段開かれない片方の目。写輪眼が開かれて………、ああ、強烈なインパクトを放つオッドアイが俺を射抜く。
ぎっひゃ~~~!その目で見つめられると、俺………マジ駄目だって!!
「ねぇ…ナルト。どうなのよ」
もう語尾上がりの…、疑問形で聞いてくれはしない。ドスの効いた感じで、これはもう……脅しに近い。
「いや…先生…何言うってば?そんなことあるわけないじゃんっ!」
俺も、もう必死だ。
声が…上ずってるってばよ…情けない。
「じゃあ、何ですぐ『YES』って言ってくれないんだよ……」
「………せんせ…」
今度はすっげ、悲しそうな顔をしてくる。
もう、上へ下への乱気流状態だ。
錐揉み飛行で、俺は目を回しそうだってーの。
そんな尻尾垂れた犬みたいな顔して、俺のこと見んなよー!うおーっ!
もう、こうなりゃあ、奥の手だ!
「な…せんせ。綱手のばぁちゃんに聞いてみねーと」
「え?」
「ほら、俺にとっちゃ保護者みたいなもんだし……確か、16歳での結婚って保護者の同意が必要なんじゃなかったってば?俺、とぉちゃんも、かぁちゃんも居ねぇから、この場合綱手のばぁちゃんになると思うってばよ……」
あ、先生の眉尻がピク…と片側上がった。
しめた。反応してる。よし、ここで……!
「オレは先生のこと好きだし………すっげ嬉しいってばよ。報告も兼ねて、ばぁちゃんとこ行って、んでその時に全部書いたらいいと思うってば……。ばぁちゃんの同意サインと俺の署名と。どうせ火影にも報告しないといけねーだろ?」
最後は、な?って思いっきり普段しないような、かわいい表情なんか計算して作って、首も傾げてみたりして。
「っく…………やられた……な」
「先生?」
「……………そのとおりだねぇ、ナルト。でっかい関門が待ってるわけだ。ッチ、同意サインはどうとでもして、さっさと出してやろうと思ったんだけどね………」
「あ、ひでー。それって公文書偽造とかになるんじゃあねーの?」
「お前………賢くなったんじゃなーい?」
「へへへ、伊達にエロ仙人と修行の旅してたわけじゃあねーってば」
「はぁ……前よりスレテ帰ってきたわけだ……」
「何だよその溜息は!賢くなったんなら、喜べってば」
先生はすっかり脱力したみたいで、今度は床にどっかりと座りこんだ。
俺も先生の前に胡坐をかいて座る。
いじけてしまった先生は、床にへのへのもへじなんかを指で書いている。
ちょっと先生が気の毒になった。
俺とのあの日の約束を、ものすごく長い年月かけて待っててくれたんだから……。
「なぁ、せんせ……俺にとっちゃ、カカシ先生はもう家族みたいな存在だってばよ?」
「ん?」
「先生、さっき恋人って言ってたけど……俺にとっては、それ以上の特別な存在だってば」
「……ナルト」
「俺さ、エロ仙人と修行に出てた時、確かに里が恋しくなったりしたけど……実は居心地良かったりもしたんだよね…。気兼ねないっていうか………ヒトの目が気にならないっていうか……。でも、それでも絶対に里に帰りたいって思ったのは、カカシ先生の存在があったからなんだってばよ」
「俺ってば、先生に会いたかったんだ!だから急いで帰ってきたの!」
俺は自分からカカシ先生にしがみついた。
先生は最初驚いた風だったけど、すぐにぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「ナルト……他にも用意してるから、プレゼント」
「うん、楽しみだってば」
先生のことだから…このままベッドへ直行かな~とか、思っていたら。
ごそごそと先生がズボンのポケットを漁り始めて。
「これは、貰ってね」
「へ?」
パカリと開いたケースには、二つ輝く銀色の指輪。
「これって…」
「俺とお揃い。マリッジリング……指につけなくても、ネックレスに通しておいてくれればいいから…」
先生と大きさが違うだけ、まったくのお揃い。丸いカタチ。
「いいの?」
「当り前でしょー!これは、予約指輪だよ。予約!でも、あきらめてないからね、オレ。火影様んとこ行って、直談判通れば、この指輪は晴れて結婚指輪になるの!」
「うん」
今度は、すっげ笑顔で答えったってば。
本当に、嬉しくて…。
すぐにでも、先生の伴侶になりたいって、素直に思えて……。
先生の気持ちがすっごく見えたこの誕生日。
俺にとって最高の夜になったのは、言うまでもない。
――――――で。後日。
先生は言葉通り、婚姻届を携え、綱手のばぁちゃんに俺との結婚について正々堂々と話したってば。
そりゃあもう、かっこよく。
勿論、あっという間に玉砕したのは想像どおりで……。
その上、俺が必死に庇ったにも関わらず。
先生は数日……木の葉病院に入院する羽目になりました。
ああ、それから婚姻届は……かなり早い段階で、ばぁちゃんの火遁の術で灰になったってばよ―――。
ちゃんちゃん。
by 千之介
おあとがよろしいようで~~~って、よろしくないっ!!
何でこうなるか…お笑い系一直線か…このサイトは…;
もっとシリアスで、エロ(ゲフンゲフン)を目指していたのに…!!!
所詮、関西人の血が……とか言ったら駄目ですね…。
一重に、自分の実力の無さです。精進精進。
(でも、こういう系統は書いてて楽しい!)
2010.10.19後日談upしました。作中の後日からどうぞv
拙い文ではございますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
ご感想・励まし等頂けますと、管理人は飛び上るほど喜びます!
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ぽちり☆
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