・・・四カカっぽくてカカナルです。












□蛍火










昔あの人は言った――。



闇夜にふわふわと飛ぶ蛍は
死んでしまった人達の魂の光そのものなんだよ…と。

こんなに柔らかくて頼りなくて…
それでも儚いまでに美しく、惹き付けられる光を発する。

群れてふわりと飛ぶ蛍も居れば
寂しい暗がりに、一つだけ弾かれたように飛ぶものも居る。

綺麗だろう…?
皆こんな光を秘めて生きているんだよ。
誰しもが輝いて生きているんだよ…
例え儚い光でも、闇夜にしか浮かばない光でも…




「俺も死んだら、こんな風に飛ぶのかな…」




ポツリと言った、まだ幼かった俺の頭を、あの人はこれまでになく優しく撫でてくれたっけ。
俺の癖のある銀髪。その質感を確かめるように何度も何度も…
まだ死というものの認識が薄く、力こそ着実につけていくものの、その力の判別も上手くつかないくらい幼かった俺。
正直、あの人のあの時の言葉で、俺は少しばかり気持ちが楽になった。
死んで命を失っても、死して尚こんな光を俺の魂が発するのなら…


―――死んでもいいか。


そう軽く思えもした。
これから一人、誰にも頼れず、己の力と技だけで狡猾に生き残る忍びとして生きていく俺には、どんな励ましよりも有難い言葉だったのだ。
だから、今も覚えている。
そして、あの時のあの人と同じくらいの歳になった今。あの人と同じ金の髪、蒼い瞳を持ったこの子と一緒に蛍を見ている。



せんせぇ、時は流れたねぇ――――








***








「うっわ~~!せんせっ、一杯居るってば…!あっちにもこっちにも飛んでるってばよ!」

「んー…暗いからね、足元気をつけるよーに」

「分かってるってばよ!フワフワ飛んでて、綺麗だってばよう~~」


この子…俺が受け待つ下忍の生徒の一人、ナルトは蛍を見て、かなり興奮しているようだ。
昔はそこかしこで乱舞していた蛍も、ここ最近では木の葉の里の中心部では滅多に見ることが出来なくなった。
それでなくても、街の人間から阻害され受け入れられる事のないナルトに蛍の存在を知らせ、教える者などなく…。
俺がポツリと偶然伝えるまでは、ナルトはその発光する虫の存在を、見たことも聞いたことも無かったらしい。
里郊外の知る者ぞ知る蛍が乱舞するスポットに、「見に行くか…?」と訊ねてみれば…二つ返事で「行く。」と答えてきた。
その時の嬉しそうな顔ったら。
ひまわりの花のような微笑も、俺を見返してくる輝いた瞳も、俺は命尽きる日まで忘れはしないだろう。
一つ一つのこの子の輝きを覚えていたくて、そしてもっと嬉しそうな顔が見たくて、俺はこの子の事を考えるのだ。
俺の脳内のアルバムが、この子の笑顔で治まりきらない位一杯になるように。



日も落ちて、すっかり夕闇が迫る時刻に待ち合わせれば…、満面の笑顔で駆けて来たナルトの姿が、今も網膜の奥に焼きついている。
小さい影が段々と大きくなり、商店街の浮かぶような明かりに姿を見せたあの子は手を大きく振りながら、俺に向かって走ってきた。
澱みなく一直線に。
俺の姿を発見すると目を細めて嬉しそうな顔を見せる前に、一瞬驚いた顔をして「珍しく早いってば…!」声を弾ませてそう言った。
ごめーんね、ナルト。…いつも遅刻ばかりするから、今日も俺が遅れて来ると思ってたんだね…。
誘った時、ナルトはとっても嬉しそうでウキウキしていたから、俺は珍しく普段からは考えられないくらいに、早くからその待ち合わせ場所で待っていたんだ。
ナルトはというと、任務の時と変わらず、指定した時間の少し前に約束の場所へとやってきた。
必ず時間を守ろうとする。
ホント、誠実な良い子だよ。お前は……

出会ってすぐに、嬉しそうに笑って蛍の話をしてくる。
とても待ちきれないようだね。
でもね…一緒に蛍を見るイベント、待ちきれないのは俺も同じなんだよ。
心の声を押し殺した微笑を口布の下で浮かべる。ナルトの手より大きな大人の掌で、夜になってもまだ明るい色味を放つ、ナルトの金の髪を愛しげに撫でてやった。

…行こうね、行こう。
昔俺が、あの人と一緒に見たように、今夜は俺がナルトと蛍を見るんだよ。

跳ねるような心臓の音を悟られない様に、何だかんだと馬鹿な話をしながら、俺はナルトの手を取りキュッと握り締めて、蛍の乱舞する森へとゆっくり歩みを進めた。










「せんせー、蛍って電球みたいに光ってるのに熱くないってばよ…」

「んー?」

ナルトが大事そうに捕まえた一匹の蛍を掌に包み込んで、俺に見せに遣ってきた。
そして、何を言い出すのかと思えばこれだ。
とても初歩的な、アカデミーでも習う事なのに、やっぱりナルトだねぇ~とも思ったが。その素朴な疑問を「…なんで?」と首かしげ訊ねてくるしぐさに、その愛くるしさにぐっと言葉が詰まる。
任務時や授業なら、『アカデミーで習ったでしょ?!』と、無碍に答えるところだが…
今はサスケもサクラも居ないのだ。少しばかり甘い顔をしても、バチが当たるわけでもない。
夜目の利く眼で、不思議そうな顔をするナルトの表情をまじまじと眺めながら、腰を落としナルトに向き合ってやる。
ナルトの小さな掌の中で、ほんのりと瞬きを繰り返す小さな蛍を上から共に覗き込みながら、ナルトの髪をゆるりと撫でつつ穏やかな口調を心がけて気分はすっかりあの中忍先生。

「この光はな、光の源となるタンパク性の物質(ルチフェリン)と発光を促す酵素(ルチフェラーゼ)との酸化反応によって生まれる光なんだよ。」
「ふんふん」

大きく頷いて見つめてくるナルトの顔が、蛍の淡い光に照らし出されるのを眺めながら、俺は尚も説明を続ける。

「…で、だ。普通、物を光に変えるのには、多量の熱が伴われる訳だが…この酸化反応の場合は、熱が微量しか生まれないんだよね。蛍の発光のように熱を伴わない光を冷光というんだが、――――この冷光っていうのは忍術の技や、薬品の調合でも使用される事があるから、アカデミーでも習ってるはずなんだがねぇ。」
「…うっ」
「忘れちゃ、ダメでしょ」

少しばかり意地悪に目を細めて、そこまで話してやったらナルトがウッと言葉に詰まる。酷くバツの悪そうな顔をして、焦っているのが手に取るように良く分かった。


…授業中寝てたな…こいつ。


思うが、さして呆れるでもなく、親指と人差し指で小さく輪を作りナルトの可愛い小さな鼻先へと持っていき、顔の中心にある形良い頂きをピンと小さく弾いてやる。


「イってーっ!」


大袈裟に仰け反り、痛みを訴えしかめっ面をして見せるナルト。
その表情を照らすように、ナルトの掌の檻から抜け出した蛍がフワリと舞って…。

「あっ…!」

ナルトがまたくるくると表情を変える。
指で弾いた後の鼻を押さえていた手を離し、闇に舞う蛍をその手で追って、右へ左へ。

「あっ、あっ!逃げちゃったってば…!せんせーのせいだってば!!」

己の掌から逃げた蛍を、諦めきれず追い続けるナルト。鬼ごっこでもして遊ぶように、蛍は風に煽られるように頼りなくフワフワと舞い続けて、ナルトの伸び上がった手から逃げおおせるのだ。


「ごめーんね、でもね…忍なら蛍くらい簡単に獲れるでしょ」


一生懸命に蛍を追うナルトを楽しげに眺めながら、俺は尚もナルトを煽るように言葉をかける。
もちろん、ごめんと言ったところで、本気で悪いなんて思ってもいない。
蛍には羽があるんだし、飛んで逃げて当然。鼻先を弾かれただけで慌てて掌の檻を緩めるナルトの注意力散漫がいけない。


「くーっ!、すっげーゆらゆら飛ぶってば…!なんか実体無い光だけみたいだってば…!」


とうとう獲るのを諦めたナルトが、今度は上へ上へと上っていく蛍を眺めにかかった。
じ~っと上を向いて、光の経緯を目だけで追って。
そして、ポツリと言った。


「魂が空に昇ってくみたいだ…」
「………!?」
「なんか……人魂みたいにグロテスクじゃあないけど……」


ナルトの言葉を聞いて、思わず己の耳を疑った。
ナルトはまだ、上へ向かってフラフラ飛ぶ蛍に目を奪われたままだ。
もちろん、俺が過去の話をしたわけではない…。
だが、ナルトの言葉が俺の過去の記憶とリンクする。
似ても似つかないはずなのに、その金の髪の後姿が師の姿と重なって…


「俺も死んだら、蛍みたいにフワフワ飛べるのかな…、ならいいな…こんな光で飛べたらいいな…」

「昔ね…蛍の光を、ナルトみたいに人の魂だと言った人が居たよ」


ナルトを背後からそっと抱き締めて、俺はナルトの耳元近くで穏やかに囁いた。
鼻腔を掠めるナルトの薫りに、胸の奥の方をずぐずぐと痛ませながらも、俺はナルトを離しはしない。

「え…?」

俺に後ろから抱き締められて、不自然に身体を捻りながら小さく訊ね返すナルト。
少し、抱く腕の力を緩めて、振り返るナルトの視線を己が視線で受け止めながら己の言葉の先を続ける。

「もちろん、蛍が人の魂なんて嘘っぱち……でも、なかなか詩的な表現でステキでしょ」

それを言った人が誰とは告げないものの、にっこり微笑んでナルトを見つめれば、同じくナルトもニコリと微笑み返してくる。

「そだね…、なんかロマンチックだってば」

ニコリと笑う可愛い子…可愛い子…。
そっと、夜風に震える髪を指で梳き、形良い後頭部を撫でながら、ふと先ほどの言葉で過ぎった思いを口にしてしまう。


「…ナルト、さっきさ…死にたいな。とか思ったの?蛍みたいになれるなら死んでもいいかって思ったでしょ?!」
「…え?」
「ダメだよ…そんな事を思っちゃ…せんせ、悲しくなるからね…」

今度は正面からナルトをギュウッと抱き締める。困惑しているだろうナルトを屈んだ姿勢で見上げれば。
不思議そうな顔をして、首を傾げて俺を見つめていた。

「思ってないってばよ…ただ、何となくあんな光になれたらいいなって思っただけで…」
「ダメだからね…せんせーを置いて何処かに行っちゃ…」

駄々っ子のように呟けば、ナルトの背に回した腕をグイと引寄せるようにして拘束を強くする。
自然俺の頬はナルトの胸に押し付けられて、聞こえてくるナルトの心音がやけに愛しかった。
少しばかり緊張しているのかな…、速いスピードでトントンと響くナルトの心臓の音。

「蛍見たくらいで死にたいとか思わないってばよ…それに置いていかれるなら俺の方だってば」

半ば呆れたような声が降って来る。
そりゃあそうだ。蛍見たくらいではね。でもね…
昔俺はそう思っちゃったんだよね…だから、心配なの。

こんな忍なんて事して生きていると、たまに綺麗な死に憧れる事があるから…。
血に濡れて汚れていると、もう二度と輝けないな…なんて思ってしまうから。


「ごめーんね……」


それだけ言って、ぎゅっとナルトを抱き締めて。
思うんだよね…
ナルトは俺みたいじゃあない。
この子はいつでもどこでも輝いてるから。輝けるから。そう思うのだけど焦りは身体を浸食してゆくばかりで。
ナルトが身じろぎしても、抱いた腕の拘束を弱める事が出来なかった。


「せんせ?…どうしたってば?」


あんまり黙って強く抱き締めているから、ナルトが俺を心配して訊ねてくる。
その問いかけにも沈黙を守ったままナルトを抱き続けていると。


「せんせ…腕、痛いってば」


ごめーんね、ごめーんね。ナルト…。
せんせ、ちょっと感傷的になっちゃった。
乱舞する蛍と蛍に関する思い出の所為だと思うけど、いつもみたいないい先生ではいられない気分だよ。
フウ…と一つ溜息をついて、ナルトを二本の腕で拘束したまま顔を上げる。
二つの澄んだ蒼い瞳は、目の前を流れる清流のように綺麗だね…
昼の光の下ならもっと綺麗だろうなぁ、と思いながら腕をそっと解いてナルトの頬を掌で捕え。

「―――瞳、落っこちそうだねぇ」
「へ…?」
「キスしてもいいかな…」

ナルトは何の事かもよく分かってないような顔をして、眼をきょとんとさせて…。
口布を指で押し下げ、俺が顔を近づけてその小さな唇に触れて漸く、ナルトはその身を硬くさせた。
乱暴なそれでなく、優しく合わせただけのキスだったから…
ナルトが驚いて二人の間にある手を伸ばして俺の胸をグイと押せば、簡単に合わさった唇と唇は外れてしまい。


「せんせ、何するってば…!」


辺りは闇でもよく分かる。ナルトは白い頬を真っ赤にさせて俺に突っかかってくる。
でも、俺はそんな事気にしない。
ナルトの腰に片手を回したまま、平気の平左で微笑みを浮かべ舌なめずり。


「恥ずかしかったの?…ここには誰も居ないし、暗闇なのに…」
「なっ…!」


絶句してるね、ナルト。
大人ってそういうもんなんだよ。


「せんせ、ナルトが好きだからさ。一緒に居たらキスしたくなっちゃうの、ごめーんね」
「…っ!」
「ナルトもせんせーが好きだよねぇ?せんせーはそう思ってるけど、違うのかな?」


ごめんね、ごめん。困ってるねナルト…身体が硬直して固まってるの、腰に触れてる腕からひしひしと伝わってくるよ。
でもね…今夜はちゃんとこの場で聞くつもりだから、逃がさないよ。
随分大昔、似たようなシュチュエーションがあったんだ…ナルトみたいに大好きな人が目の前にいて。
でもその時は好きって言えなくて、言えないままに失くしちゃった。
同じようなシュチュエーション、これも何かの縁でしょ…。
今まではっきり言わなかったけど、こんな夜…ちゃんと伝えるのも悪くない。


「好き…だよね?」


ちょっと無理矢理だけど誘導尋問。
ナルトはぐっと押し黙っている。
でもごめんね。せんせ、とっくの昔にナルトの気持ちに気付いているよ。


「もちろん、イルカせんせーみたいな好きとは違うでしょ?」


意地悪にもあの中忍先生を例に出す。
ナルトがギュッと自身の服を握り締めた。


「困るの?答えられない…?」


動きの無くなった二人の回りを、蛍がからかう様に舞っている。
ナルトの肩に一匹止まり、俺の腕に一匹止まり…
目の前をフ~ラフラと一際明るい一匹が気楽そうに飛ぶ。


「俺の目見てよ…」


さっきからナルトは視線を下方に外したままで。
訴えて軽く身体を揺さぶれば、羽休めしていた蛍が飛び立った。


「………好き…だってば…」


視線を合わせないまま、ものすごく小さな声。
でも確かに聞こえた。


「何?もう一回言って」


俺は性悪だね。
聞こえていても何度でも聞きたいよ。


「…好き…だってばよ…」


はい、よく出来ました。こっち向いてニッコリ笑ってくれれば百点満点なんだけど。
今は言うだけで精一杯なナルト。その愛しい存在をギュッと抱き締めてやる。


「ナルトの事大好きだよ。片時だって離したくないくらいに―――」

「せんせ…」


驚いているね。今まで他人から自身を求められた事ないもんね。
でも、俺の気持ちは嘘じゃないよ…この蛍に誓って嘘じゃない。
大切な師の思い出に誓ってもいい、嘘じゃないんだ。

今までこんな事言わずに、ただ見守ってきたけどね…
どうやら最近我慢しきれなくなったみたいで、近い内にこんな事になるだろうなって思ってた。
それが、ただ今夜だっただけ。
それだけの事。
確かにこのシュチュエーションも影響しているけど…。


せめて、ただの先生から昇格して…キスの一つも出来る存在なりたかったんだよね。
いいよね、ナルト。今夜から許してくれるよね?


「せんせ、大好きだってば…さっきの…もう一回して…?」


上目遣いで精一杯勇気振り絞って…
甘えてくるナルト。
可愛いね~、可愛い。
本当にせんせーはもう、ナルトにメロメロなんだよ。


「一回と言わず何度でも…」


可愛くて愛しい無二の存在を抱き締めて、ナルトの頬に手を添えると、俺はまた優しい触れるだけの口付けを贈った。


蛍が見てる。
フワフワと周りを飛びながら、二人を見てる。

ひょっとして…せんせい?!



―――――見ていますか…?













by 千之介

自分の中では、カカシ先生は四様に薄っすら恋心を抱いていたように思うのです。
何せすんごい美人さんですし、優しいし。強いしかっこいい!!
最初はナルトにその面影を探すような気持ちだったのかな~。とか(笑)
自分ちのカカシ先生は多分そうです。
面影を追う所から始まって、そしてそのうち、その光の強さにアてられてマジになってしまったかな~と。

拙い文ではございますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
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ぽちり☆

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