カカシの機嫌は悪いままだった。
機嫌が損なわれたまま、任務のないカカシは、再度7班の結成をサクラと帰ったばかりのナルトに告げる。
ナルトが自分よりも周りを優先し、皆と親交を深めあうのが、どうにも許せなくなっていたのだ。
自身でも大人げないことだとは思うが、どうしようもないほど、イラつく。
まずは旅の疲れがあるナルトを、癒してやるのが第一だと、頭の中の自分が告げる。だからといって、素直な行動を取れない。
焦燥に支配されている自覚はあった。しかし止まらなかった。
ちんたらとする気分にもなれず、そのまま二人を演習場へと連れていく。二人はそんなカカシの苛立ちに微塵も気付いてはいないようで、終始楽しそうだ。
なだれ込むように演習へと入れば、カカシは二人に懐かしい鈴を見せた。
まず手始めは、以前と同じように鈴取りだ。
カカシがチリン…と鈴を鳴らせば、ナルトは目を輝かせながら言った。

「なっつかしいってばよ~~!」

―――ああ、懐かしいんだ。ナルト。でも一番に懐かしむべきは、俺じゃあないのかね~。

カカシは鈴にすら嫉妬した。ここまでくれば十分末期の症状だ。
イライラが募れば、自然意地も悪くなろうというもの。
サクラや、特にナルトに禁句であるサスケの名をわざとらしく出してしまう。


「あの時はサスケもいたっけな…」


案の定、サスケの言葉に反応する二人は、チャクラの質を著しく落として、落ち込んだ。
普段なら、ナルトに意識をさせないために、自らサスケの名を封印しているのに、カカシにはそんなことすら今はどうでもよくなっていた。
唯一の救いは今から行う演習だけ。
本気で向かってくるナルトに対峙すれば、この機嫌もいくらかはマシになるだろう。


落ち込む二人を引き戻すように声をかける。


「さて始めますか…!」


楽しい演習の始まりだ。

















思った通りだ。カカシは思った。
イライラが少しずつ胸の内から消えてゆく。
二人に相対し、本気を出して応戦すれば、サクラもナルトも、成長の丈をこれでもかとカカシに見せつけた。
予想通り、ナルトはせっかちで、開始を待たずしてカカシに突進してきた。
その時、ようやくカカシはナルトに触れることが出来た。


―――ああ、柔らかい髪。昔のままだね…


掴んだナルトの手首は以前よりも一回りしっかりとし、骨の周辺には筋肉が巻いている。
昔、同じように背後をとったが、その頃のナルトはまだまだ小さくて、カカシの胸下ほどまでしか背丈がなかった。
そして、握りこんだ手首が女の子の細腕のように華奢であったのを、カカシは今でもありありと覚えていた。
成長したナルトに直に触れることで、心が凪いでゆくのが分かる。


―――成長したんだね、ナルト……。ま、楽しませてもらいますか。


サクラとナルトの成長を目の当たりにし、嬉しい驚きの連続を心ゆくまで楽しめば、鈴を温存したまま日が暮れてどっぷり夜の帳の中。
そろそろ二人も焦っているはずだ。
本気で鈴を取りに来なければ、夜が明けてしまう。
カカシは写輪眼を細く歪め、疲労のために大きく息をつく。
悲しいかな、息が上がってしまうのは、写輪眼を使えばいつものことだった。
軍師の才があるサクラあたりが、何らかの作戦をたててくるに違いないと。カカシが気配を探り、鼻を利かせれば……。
正面から飛び込んでくる二つの影。


―――ナメられたもんだ、真っすぐ突っ込んでくるとはな。


だが飛び込んでくるナルトの様子がおかしい。
その大きな叫び声の内容に、己が耳を疑う。


―――えええええ~~~~っっっ!?


なんと、ナルトは先ほど自分自身がカカシにプレゼントしたイチャイチャ本最新刊のオチを叫んでいるではないか。
冗談じゃない。とカカシは思った。

―――流石は意外性№1だね………

しっかし、これを聞いてしまっては、楽しみもくそもない。
咄嗟に耳をふさぐ。これは誰もが瞬時にとる反応だろう。
だが、幸か不幸か、カカシには器用なほど役に立つ写輪眼があった。
戦闘時に役に立つ、宝のようなこの目が、仇になる。
ナルトの動く唇を、暗闇であるのに読唇で完全に読んでしまえる。
結果、折角耳を塞いでも意味がない。
二人の作戦だとわかってはいても、カカシは両耳を塞ぎ、果ては自身の目を閉じた。





チリリ~~~ン。





鈴はもう、教え子二人のものになって、あえなく本日の演習は終了―――。


サクラとナルトの得意満面な笑顔に、してやられたカカシは、それでも綺麗に笑って返した。



―――今回はやられたけどね、次は見ていなさいよ。


そう。
何より、この演習が終わってしまえば、やっとナルトと二人きりの時間を持つことが出来る。
やっとこの時が来たと思えば、自然と口元は笑みを象った。










「サクラちゃ~~ん!俺が家までおくるってばよー!」

「え~!いいわよナルト。近いから自分独りで帰れるし。気持ちだけ有難く頂いとくわね。ありがとう」

二人のやり取りを聞いているカカシは、クスリと漏れる笑みを堪えた。
確かに、サクラであれば、婦女子を襲ってくる輩程度なら、おそらくあの怪力で一発撃沈だ。
よほどの手練でなければ、サクラをどうこうしようなど無理に等しい。
心配するようなことは無いとは思ったが、如何せん今は真夜中。
真っ暗闇の中放置し、うら若き乙女を独りで帰すというのは、あまりにも無責任な話だ。
第一、サクラを独りで帰したりすれば、ナルトに酷い教師だと思われかねない。

「いや、サクラ。こんな時間だし、今日は俺も一緒に送っていくから、三人で帰ろう。サクラの家は通り道でもあるし、気にすることはないよ」

カカシが声をかけるとサクラは照れたような顔をする。

「そうですか~、じゃ、お言葉に甘えます~」

「そうするってばよ~」

ナルトもそうするべきだと大きく首を縦にふり、三人で歩く帰り道。
何やら懐かしい空気を三人が三様感じ取っていたのだが。
他愛ない会話をしているうちに、あっという間にサクラの家の前まで辿りつく。
サクラは丁寧に二人に礼を言うと、軽く手をふり家の中へと消えていった。




サクラを無事に玄関まで送り届けると、ナルトの方からカカシに話しかけてきた。

「先生…二人になったってば…」

「ああ、そうだね」

夜道はとても静かで、その空気を損なわないように、カカシも静かに応える。本当は、ナルトを今すぐ浚っていきたいところだが、待ち望んだ焦燥を隠すように穏やかに歩いた。

「そこの公園突っ切って行く?近道だし…」

カカシが提案すると、ナルトはおう…と短く答える。両手を頭の後ろで組み、そっくりかえるようにし、リラックスした様子で歩いていた。
時折首を後方に伸ばしたり、左右に傾け、ぐるりと回したりしながら首周りのストレッチをするナルトをカカシは一瞥する。

「ねぇナルト。そこのベンチに座って少し話をしない?」

かなり思いきって言い出してはみたのだが。

「いいってばよ?」

断るどころか、簡単な返事。そして、ナルトはちょこんとベンチに腰をかけた。ナルトの後を追うように、カカシもベンチに腰を下ろす。
目の前の街頭にはうやうやと大小の餓がたかり、そこだけが安っぽい光を放っていた。
街頭の明かりに照らされたナルトの頬が、白く浮いたように見える。
日中の太陽光に照らされたナルトは、もっと精悍で美しい。
人口の光に浮かび上がる瞳の蒼が、不自然に輝いて、思わずカカシは生唾を飲み込んだ。
昼間のナルトと雰囲気がまるで違って見える。妖しげに着飾る夜の女の白粉のような人工の色香を、カカシに思い起こさせた。

「なぁ、俺って成長しただろ?」

笑顔を向けて話しかけてくるナルトの瞳にまた吸い込まれそうで、カカシは思わず視線を手元に戻した。

「ああ、成長したね」

「カカシ先生……何か変だってば」

ナルトはカカシの特別な感情に気付いていないかのように、平然と身体を寄せて距離を詰める。
カカシは、変で当然だ。あたり前だ。と食いつきたかった。
こんなに待って待って、待たされて。
今日一日ですら、まともに触れることもできず、待たされて。
思い積もったこの恋情をいったいどうしてくれるの?と詰め寄りたいくらいなのに…。
ナルトはいっこうに、色恋の空気を身に纏ってはくれない。
ちょっとくらいは自分を意識して欲しいものだ、とカカシは心の中で頭を抱えた。

「そりゃあ、変にもなるでしょ……。俺、お前のことが好きで好きで仕方ないんだよ…?忘れちゃったとは言わせないよナルト」

そんなもの。忘れていたら、まず間違いなくキレておしおき決定だろうが…。ナルトは平然とカカシを見つめる。澄んだ双の蒼が、カカシをじ~っと見つめてくる。
結構プレッシャーをかけた物言いのつもりであったカカシは、反対にうろたえた。ここで数年前なら、ナルトの方がうろたえるパターンなのだが…。

「忘れるわけないってば…」

「え…?!」

思いもかけないナルトの熱っぽい眼差しに、うっかりカカシの方がたじろいでしまう。

「何で忘れるってばよ…。先生拗ねてんの?」

「!!」

丸バレだ。ナルトに丸っきりバレている。
ナルトが、尋ね、首を傾げ、カカシの腕をそっと取れば、カカシの身体がビクリと反応した。
ナルトは、クスリと笑う。

「先生…………俺も先生のことずっとずっと好きだってばよ…」

とても聞きたかったナルトの言葉だ。しかもその声は、今日一日聞いたものより、甘やかで、その声だけで、カカシの男の部分が主張を始める。
とうとう我慢の限界を迎えたカカシは、自身の腕に伸ばされたナルトの手を掴むと大きく引き寄せ、その愛しい身体をかき抱いた。
突然の行為に、ナルトは少しだけ腕の中で身を硬くしたが、すぐにその背に自分から腕を回し、カカシほどではないが、しっかりと抱き返す。
まるで思いの丈を伝えたいとでもいうように。

「ナルト……。こうして早く抱き締めたかったんだよ。今日出会った時すぐにでも…。お前って、あっけらかんとしてるからさ……、も、不安で不安で……。堪らなかった…」

「先生、何で先生が不安になんだよ、不安だったのは、俺のほう!」

そう言って、カカシを宥める様に背を擦る。ナルトは雰囲気ぶち壊しの声を上げてワシャシャと笑った。

「第一、あんな公衆の面前でこんなことするわけねーだろ?」

『俺ってば結構有名人。』などとふざけて続けるものだから、カカシはナルトの頬を両の掌におさめ睨みつける。

「俺は、公衆の面前だって、いつだってしたい。どれだけ待ったと思ってる?もう、気が変になりそうだった……」

思いつめた瞳…。覗く右目だけで、そのもう片方の左側も苦しげに歪んでいるのだろうと、十分推測できた。
ナルトは、己の顔に当てられたカカシの手にそっと触れる。そして、そのままカカシの頬へと同じように手を伸ばした。
触れるのは口布。その温もりの無い感触が嫌だとばかりに、一気に布地を引き下ろす。

「ナルト…?」

「キス……するってば」

ゴクリ。と響いたのは、カカシの飲み込んだ唾の音。
そしてチロリと見上げるナルトの上目づかいに、カカシは完全ノックアウトを食らった。
もっと落ち着いて、雰囲気を楽しんで口づけたかったのに…カカシの考えは瞬時に吹っ飛んで、気がつけばナルトの唇を貪っていた。

「ハァ…んん…っ!」

あまりに最初から奪うようなキスに、ナルトが苦しげに声を漏らす。
ナルトの頬にやった手をそのままに、顔を固定し己の顔をぶつけるように合わせ、咄嗟で開いていた唇の隙間に己が舌を無理矢理ねじ込んだ。
衝撃にナルトの両手は当初、空を泳いだが、すぐに衝撃に耐えようとするかのように、カカシの忍服を掴む。

「…ッハ」

カカシは夢中だった。
夢中でナルトの口腔内を味わう。
苦しいほど、喉奥に舌を差し入れたかと思えば、ナルトの躊躇する舌を追いかけ捕まえて痛いほどに吸い上げる。淫らな水音が、静かな公園に響くようで、ナルトは居た堪れない。

「ンンンッ…!」

ナルトの抗議の呻きが上がるのも、知らぬふりで行為を続ければ、ナルトの顎をどちらともわからぬ唾液が幾筋も伝い始めた。
歯列をなぞり、角度を変えて口づけを楽しみ始める頃には、カカシの片手はナルトの金の髪へと回され、後ろ頭を掴んで固定する。
空いた片手は、ジャージのジッパーへとかかる。そして、ゆっくりと音を立てて引き下ろした。
夜気が開いた胸元を撫で上げ、ナルトはブルッ…と小さく震える。
隠されていた首筋が覗くと、カカシはまるで吸血鬼がそうするように、皮膚の薄い部分に唇を寄せる。一度ぺロリと甘い肌を舐め上げ、そして痛いほどに歯を立てた。

「ンッ!……痛っ……!」

皮膚が破れぬ程度に噛みつき、敏感になったところで、あやすように舌を這わす。
何度も何度も、首筋から顎先まで舌を這わせると、ナルトは嫌々と首を振り、カカシの行為を遮った。

「やだってば!…ッヤ…!」

カカシの胸を押しのけようと腕を突っ張り、力を込める。

「な…んで?」

ナルトから唇が離れると、欲情の色を濃くしたカカシの声が、続きをせがむ様に囁きを落とす。

「なんでって……こ、…こ…ここ、公園だってば!」

ナルトは既に涙目になっていた。潤んだ目で不埒なキスをした相手を睨みつけるが、寧ろ煽っているのと変わらない。

「そんなことで拒むの…?もう、先生止まらないんだけど…」

まだ色に濡れたままの眼で、カカシは自分の状態を訴える。だが、無理強いをしてまでナルトにどうこうしようという気はないらしい。
ゆっくりとナルトとの距離を戻し、密着した身体を離した。
『先生…結構…キツイ』とナルトの手を己の股間に導けば、ナルトは顔面を真っ赤に茹で上がらせて黙り込む。
カカシの股間に息衝くモノは、すっかり硬く張りつめて、窮屈そうに布を押し上げていた。
その熱を直に感じさせられると、ナルトの股間まで熱くなる。それでなくても、先ほどからの刺激的なキスで、ナルトの雄は熱を孕み始めていた。

「ね…ナルト。家においで」

カカシは自身の熱が散るようにと呼吸を整えながら、ナルトを誘う。
だが、ナルトはすぐに『うん』と答えない。
カカシの言葉に含まれる、その先への思いを察し、答えられないのだ。

「ナルトの部屋、まだ帰れる状態ではないでしょ?」

卑怯な手を使う。とカカシ自身が思っていた。
ナルトの部屋は長きの主不在で、案に寝床も何も整ってないよと言いたいらしい。
実際はカカシがコマ目に掃除をしていた。だが、布団は最近干していなかったから、完全な嘘でもない。
確信犯の誘いに、ナルトはまんまと嵌る。否、分かって尚、飛び込んだのかもしれないが…。

「じゃあ、行くってば…」

そう言ってナルトは、ぎゅうとカカシのベストを握り締めた。











next











by 千之介

く、苦しかった~。早く二人っきりになって欲しくて…
二人のキスが一番好きな気がします♪
やっと二人になったので、以後はお初に進む為サクサクいきたいころです……が……書き出すと恥ずかしくて手が止まる…orz



拙い文ではございますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
ご感想・励まし等頂けますと、管理人は飛び上るほど喜びます!











スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

ぽちり☆

【R-18】閲覧制限パスワードについて

・タイトルの★マークがR18もしくは、open表示憚られると思われた要パス制です。

管理人の独断により、openな開示をはばかられると判断した場合はパスワードを必要と致します。
パスワードは難しいものではありません。カカナルに愛をお持ちの方であれば、非常に簡単です。二人の誕生日4桁を半角英字xで繋ぐ9文字です。
入力は半角英数のみ。(カカシ×ナルトってことです☆)

メールフォーム

ご意見ご感想お待ちしております。
お返事が必要な場合は必ずメールアドレスをご記入下さい。