「おじゃまします」

ナルトは丁寧にも挨拶を欠かさずに、暗い部屋へと足を進める。
カカシの部屋までは、瞬身で向かえばあっという間。玄関先までカカシに抱えられている間、カカシは一切口を開くことなく、ナルトの心臓ばかりがドクドクと音を立てた。
ナルトを玄関扉の前に下ろした後も、カカシは無口なままで、ドアを開くとさっさと室内に入ってしまう。
しかも電気をつけないので、いくら忍で夜目が効くナルトでも、部屋奥へと無遠慮に進むことは躊躇された。

「風呂入るよね?」

カカシが言葉少なにそれだけ言うと、ナルトの返事も待たずにバスルームへと消える。
電気くらいつけろってばよ。とナルトは思っていたが、自らが電気を点けるのは何となく憚られて、そのうちカカシがするだろうと大人しく待つことにした。


―――何か理由あるかもしんないしなぁ。


比較的ナルトは呑気だ。
先ほどまで、大人のやり取りをカカシと交わしていたというのに、いざ場所を変え、カカシと身体を寄せ合うようなことがなければ、ナルトの中からは欲情だの、色事だの、ましてや
大人の駆け引きなどは消え失せる。
今も、カカシの部屋に来て多少は緊張しているが、初めて訪れる場所でもなく、風呂入るの楽しみ~などと思っている。

「カカシ先生ありがとー。俺っ、帰ってから風呂入んの楽しみにしてたってば」

それにさっきの演習で汗もかいたしー。とバスルームのカカシに聞こえるよう、声を大にして叫んでいる。
カカシは風呂場から出てきても、室内に明かりを灯そうとはしなかった。
先にテーブルの椅子に座っているナルトに向き合うと、カカシも椅子を静かに引き出し、腰をかける。
窓から月明かりも差し込んでいるので、煌々と明かりを灯さなくても、互いの表情くらいは読み取れるのだが…

「なぁ、センセ…電球切れてんの?」

ナルトは堪らず口を開いた。
そうでもなければ、電気をつけないのはおかしいとでも言いたいようだ。

「ねぇ、ナルト。今ここの明かりがついたら、後悔するのはお前だと思うよ」

「はぁ?」

ナルトはカカシの言うことがさっぱりわからない。
素っ頓狂な声を上げて、聞き返してしまう。

「今俺の顔まともに見たら、お前絶対後悔する」

カカシの声音は甚く真面目そのもので、冗談など微塵も含んだ様子がない。
そして、ゆっくりと口布を引き下ろすと、テーブルにダンッと音を立てて突っ伏した。

「ナッ!どうしたってばよセンセ…!」

「何でお前、そんな平気でいられるのよ……。普通あの続きで家に誘われれば、もうちょっと意識するでしょ?……も、俺本当に限界だって言ってるの。今俺の顔まともに見たら、お前絶対引くよ…、今にも押し倒してやるって……男の顔丸だしになってるから」

「うっ……」

カカシに伸ばそうとしていたナルトの手が、カカシの告白によりフリーズする。

「そ、それは……え~と……あの……」

言い淀むナルトに、カカシがほらやっぱりね、と溜息をつき、顔を上げた。


「お前……まだ、覚悟出来てないでしょ?」


その言葉で、カカシの強い視線を受けて、ナルトの身体が凍ったように固まった。

このまま回れ右して帰った方がいいのか…。ナルトの頭に一瞬この場から逃げ出す考えが過る。
そしてその考えを口に出さなくても、カカシは察知していた。

「ほらね、核心を突こうとするとクルリと方向転換する感じ。同じように向き合って、一緒に考えてくれてるの?……今までだって、いっつも俺がなし崩し的にナルトを押し倒して好きにしてきた。でも、里を出発する前に約束したよね…。帰ったら、ナルトの何もかもを俺に頂戴って言ったよね?……ナルトは全部くれるって言ったよね?」

「…あ」

カカシがナルトに言わんとすることは、性行為そのものだ。キスでもペッティングでもない、ナルトの身体を女に見立て、カカシの雄を受け入れる行為をするということだ。
―――SEX。
この三文字がネオンのように、ナルトの頭の中で瞬いて…
ナルトの顔に、暗がりに隠されながら朱が走る。
ナルトも分かってはいた。約束も勿論覚えている。カカシが嫌いなわけではないし、カカシに今まで与えられた身体の快楽は、恐ろしい行為というより、寧ろ心地良い行為であった。
だが、甘えてもいた。無理を要求されることはほとんどというほど無かったし、年齢差もあるナルトに対し、カカシはいつも己の欲求は二の次という状態だった。
それをどこかで当り前のように思っていたのだが、自身が青年へと成長するにあたり、その忍耐がどれほど凄いことなのかも薄々ながら、旅の途中で理解した。

「ごめんナルト。正直……恥ずかしいくらい盛ってる。戻ってきたばかりのお前に、俺のこんな感情いきなりぶつけて、大人としてどうよって…本当思ってる。でも……止まらないんだ……ナルト」

最後の方は、絞り出すような苦しげな響きで、聞いているナルトまで苦しくなる。

「センセ…」

そんな短い言葉が、ナルトにとって精一杯だった。
カカシのいっぱいいっぱいの感情が、ダイレクトに言葉に乗ってぶつけられる。
これでさっぱり分かりませんなどと答えたら、完全に恋人失格だ。
カカシは自身の中になけなしのモラルを引き集め、己の中で線引きをしたのだろう。
ナルトが大人になったら…
せめて15歳になるまでは耐えようと。
こんなに頑張ってくれたカカシに、大事にしてくれたカカシに、愛し続けてくれたカカシに…
そろそろ応える時期が来たのかもしれない。
ナルトが思い切って口を開こうとした、その時。
カカシが思いつめるナルトを見るに見かねたようで、小さい声で再度『ごめん』と伝える。
同じく小さく、カカシのこぶしがテーブルへと打ち付けられた。
その動きは、何かを遮るかのようだ。

「駄目だ…。駄目だね……お前の成長した姿見たら、嬉しくって興奮して、箍が外れてしまった。こんな気持ち、ナルトにぶつけてどうこうしようなんて……オレ、どうしようもない男だね……ハハハ」

己自身を嘲るように、渇いた笑いが零れ……。
『情けない』そう一言呟くと、カカシは風呂場へと向かった。
湯が沸いたのだ。
ナルトは声をかけるタイミングを失い、唇を噛みしめた。
席を立ち、カカシの後を追う。
何をしようとか、何かしたいとか…考えての行動では無かった。
気付けば、身体が勝手に動いていたのだ。
カカシを求めて。

「……カカシ先生」

バスルームでは、カカシがタオルだの着替えだの用意をしていた。
その背後で、ナルトはおもむろに声をかけ、パチンと蛍光灯のスイッチを入れる。

「…っナルト!電気点けるな」

「何で…?いいってば……俺、先生の顔見たい」

カカシが強張った表情でナルトへと振り返る。
カカシの深い海の色、ネイビーブルーの瞳が映しだしたのは………

ナルトの……大人の顔をしたナルトの顔だった。

引き上げられていた上着のジップに手をかけて、ゆっくりと、殊更ゆっくりと、まるでカカシに見せつけるように引き下ろす。

「ナ…ルト、お前」

カカシの眉間に深い皺が刻みこまれ、また苦しげに顔が歪む。

「知らないよ…知らないからね」

低い声で唸るようにそう呟けば、カカシはナルトの肩を、壁際に勢いよく縫いつけた。
ドンっと鈍い音が響く。

「ッつ!」

勢いのあまり、ナルトの背に痛みが走る。
だがカカシは容赦しなかった。

「こんなになってる俺を煽ってどうすんの?お前…」

「ヘヘ…、まず一緒に風呂入るってば。んで、その後でカカシ先生がしたいこといっぱいするってばよ」

あっさりと返された言葉に、驚き、見開かれる瞳。
ハァハァと獣のような、欲情した男の息遣い。
吸い寄せられるようにキスしようとするカカシの唇を、ナルトは片手で遮った。
何で?と不快に寄せられるカカシの眉根に、ナルトのバードキスが触れる

ッチュ…と。

おかしなことに、こんな小さなキス一つでカカシの毒気がみるみる抜けてゆく。

「俺覚悟決めたから、いつでもいいから…。今夜先生が欲しいっていうんなら、俺の身体、いくらでもやるってば。だから風呂、はいろ」


――ゴクリ。


上目づかいにカカシを見上げ、衝撃の告白をぺロリとしてのけるナルトに、カカシの生唾を嚥下する音が恥ずかしいほど大きく聞こえた。












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by 千之介

小悪魔なナルト…天然の強み☆でカカシ先生を翻弄~~
…といっても、ベッドでは完全カカシに翻弄されるよねぇ…。と思うのです(^^;

カカナルが好きなのですが、二部になり成長するにつけ
カカナルカカも、「う~ん、いい!」な最近です。
精神的に受ける方が強いのが好みのようです。
ヘタレ攻めもけっこう好きなんだろうか……。





拙い文ではございますが、楽しんで頂けたなら幸いです。
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